府中だより 7月13日(執筆7月3日) 河崎 啓一

 令和6年6月23日午後1時、朝からの強い雨がいつしか消え去った空のもと、湘現会三氏のご来駕をいただきました。桑原啓二氏は、私、啓一と名前が横棒一本差、兄たり弟たり「朝からOK倶楽部」で美声を競った仲。村上順三氏は、昭和14年京都上京区西陣で産声を上げられた、そのとき私は小学4年生、近くの京都左京区に住んでいて、不思議なご縁で結ばれていたことは、4月の会報でお知らせしたところです。 堀井利修氏とは、昭和53年ごろ、渋谷東、青山学院近くのビルの一室で、初めて名刺交換させていただき、後にそのご縁で湘現会にお誘いいただいた、気がつけばもう半世紀に近いおつき合いになりました。3人の方を4階の居室にご案内、レモンスカッシュで乾杯ののち、村上さんお心尽くしのおみやげを開きました。
 村上さんと私の宿縁の地ともいえる、京都千本今出川の老舗千本玉寿軒の京菓子です。社長は、村上さんと小学生からの友人ということで、この日のために電話一本、宅配便でとり寄せて下さったのでした。 銘は「西陣風味」。西陣織のまろやかな肌ざわりを菓子に写し、あたかも反物のごとく、たとう紙に包み観世よりできりっと仕上げた包装の姿、取り出して口に含めば、古都千年の甘味が口中に滲むのでありました。私は、京都における、昭和14年ごろの映画の新聞折込広告をご披露しました。タテ25センチ、ヨコ10センチばかりの長方形のものです。紙面には、たとえば、松竹大船超大作『桜の国』といった文字が踊り、主演の高峰三枝子、上原謙の姿が大写しになっているというものです。90年近く秘蔵してきた100枚ばかり、いつかは世に出したいと呟くと、「値がつきますよ」と、堀井さんが押して下さいました。
 桑原さんが小型のスピーカーを取り出し、スマホにつないで伴奏の準備を整えると、用意してこられた歌詞カードを配られました。 湘現会有志の原語マスターが今年の目標として、ベートーヴェン第九シンフォニーからの「よろこびの歌」を皮切りに、「荒城の月」「故郷」と続け、最後は石川陽久氏を偲びながら「花が咲く日は」で締めました。
 歌い終えると、「ぼつぼつおいとましましょうか」 老人ホーム日常の表裏に精通しておられる堀井さんの提言で、2時半おひらきになりました。
 1階ロビーで記念写真を撮り、玄関でお見送り。故あって鎌倉を離れ、独居する94歳老生のネジを巻かんと、遠路訪ねていただいたご好意に胸が熱くなり、バスに乗り込まれる3人の方の背に、深く頭を下げました。のちに、同じバスに乗り合わせた、施設の女性スタッフが知らせてくれました。「3人の方、湘南からこられたのですね。どういう経路で帰ろうか、盛んに論じておられましたよ。」そしてつけ加えた。「若々しい、張りのあるお声で、学生さんみたいでした。」