確定申告とミモザの花 その2 3月11日 飯田朝明
2 ミモザの花
平塚駅のバス降車場は駅ビルに向かって左側にあり、そこから大磯方面のバス停に行くには、ロータリーを一回りして駅正面の広い階段の前を通るか、地下道を通って大通りの反対側に出るかの二つの方法がある。私は税務署からの帰りは、駅ビル1階にある銀行のキャッシュコーナーで通帳に記入するため、大回りしてからバスに乗ろうとした。するとバス停少し手前の歩道で、3,4人の中高年の女性が黄色い花束を持っているのに出会い、その一人が私に花を渡そうと近寄ってきて、1枚のポストカードを見せた。とっさに私は募金でもしてくれと言われるのかと思い、ちょっと戸惑ったが、説明だけで特にそういうこともなく、その人がくれた花束とカードを受け取った。
カードには真ん中に黄色いミモザの花が描かれ、「今日は国際女性デーです。1904年3月8日、アメリカ、ニューヨークで女性労働者が婦人参政権を要求してデモを行いました。」「イタリアでは女性が互いにミモザの花を贈りあいます。この季節、町中にミモザの花が見られます。「感謝」「友情」「思いやり」などの花言葉があります。」「私たちは介護保険制度の改悪と年金額の引き下げに反対します。」〇○組合平塚支部女性部などと書かれていた。これらを要請した文書に署名を求めていたことを後から知ったが、結局、私は何もしないで花をもらっただけでバスに乗り込んだ。そして、家に帰るとすぐに、西日の差し込む食卓の花瓶の水を入れ替えてミモザの花を挿して眺めたのである。
ミモザは房状の黄色い花を無数につけた樹で、よく見ると花はごく小さい金平糖のような玉で、それが一つの小枝に20個以上垂れ下がっており、元枝には銀色を帯びた薄緑色の長さ1センチ位のシダ状の葉があった。もらった2本の大きい枝には、おそらく1000個以上の黄色い小さい花があるように見えた。
私は、今までもミモザという言葉は知っていたが、この花を見るのが初めてだったので、早速インターネットで調べてみた。そこには、ミモザはフサアカシアと呼ばれ、マメ科アカシア属の植物の総称であり、原産地はオーストラリアであると書いてあったが、ネイティブアメリカンの恋人同士が愛の告白するとき、この枝を添えたとも言われていることから、元々北米大陸にもあったと推察される。
そのように、70歳台の終わり近くになって初めてミモザのことを知ったつもりだったが、私は、その時までに既にミモザを見ていたのである。実は、我が家の門の右方30メートルほどの所にある他家の庭角に、毎年春になると藤の房のように沢山の黄色い花房をつける樹があったのである。なかなかいい樹だなと思いながら、私はその名称を調べてみようともしなかったのである。また、この樹はそればかりか、大磯駅前のロータリーの植え込みにもかなりの高木が1本植えられており、風が吹くたびに大きくなびく黄一色の花房は正に壮観で、毎年春の訪れを実感させていたのである。
そういうわけで、私が確定申告する日を3月8日にせず、平塚駅でのバス乗換えの際に大回りをしなかったらミモザの花に出会うことはなかったと思われるので、この日の出来事は、何か繋がりがあったような気がしている。(完)