河崎啓一の青春 8月11日 河崎啓一

 河崎啓一は4階建て老人ホームの最上階に住んでおります。部屋は扇形で
弧の部分がワイドな窓になっています。富士山は物流倉庫に隠れましたが
奥多摩の山が見えます。送電の塔が高く立ち送電線が走ります。この電気は
只見川発電所からやってきて懐かしの湘南へ走ります。塔の周辺には住宅が
建ち並びます。朝、カーテンを開けて陽に映える屋根屋根を見ながら、
河崎啓一の今日が始まります。今ぞ青春!忙しいです。
 扇形の部屋の要のところが出入口のドアです。方角は東北、時計の12に見立てます。
部屋中央のオットマン付き安楽椅子に腰掛けて対座。左、9時の方へテレビ、ベッド、
右3時の方は洗面所の壁を隔てて?笥と本箱。クルリと半周6時は東北、ワイドな窓です。
窓の前には小机二つ。一つにはパソコン、もう一つには白いオルゴールの箱。
中身はキャンディ、メロディはアニーロリー。この歌を共に楽しんだ亡妻の写真が並びます。
朝食は7時半、食堂まで徒歩30歩。席につきます。お隣は、大正生まれフランス生活の長いご婦人。
 Bon jour madame ca va?とご挨拶。
食堂へは、食事3回、午前の体操、午後のおやつ・レクと日に五往復いたします。お風呂は週二回。
スタッフのおねえさまが頭と背中を洗い、石鹸をたっぷり浸したタオルを渡してくれて「はい、前をどうぞ」
髭は自分で剃ります。でも、仕上げは、おねえさま。湯船に長々と伸びて童謡と古い流行り歌を
声揃えて歌います。外出、面会禁令下の日常のご報告はこれでお終いです。


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