湘現たまて箱より再録 (段落などWEB向けに編集しました。)

アメリカの結婚式と披露宴

                                              宮田 英夫

 一九八五年から足掛け十年間、アメリカ中西部のシカゴ郊外に住んだ。 この間、十二回ほど友人の子息や会社の社員、その子女などの結婚式、披露宴に出席する機会に恵まれた。
 最近は日本でも商業主義に毒された金のかかる結婚式が流行らなくなって来たが、無駄な金をかけずに、出席者全員が新郎新婦との会話を楽しみ、ダンスに興ずるアメリカの結婚式と披露宴を紹介したい。

(1) 招待状
 結婚式の招待状は花嫁の両親の名前で貰うことが多い。これは、披露宴の費用を花嫁側が負担することが一般的なためである。しかし、双方の両親や、結婚する当人たちの名前による招待状もあって、披露宴の費用を誰が負担するかに関わっているらしい。

(2)結婚式・披露宴への出席
 会社の社員の場合は、概ね近くで行われるので日帰りで問題はなかったが、十二回のうち七回は遠隔の地、東はボストンやロードアイランド州のプロビデンス(シカゴから空路で片道ニ時間、1千四百キロ)、西はロスアンゼルス郊外やサンフランシスコ(シカゴから空路片道四時間、二千九百キロ前後)で行われたため、泊りがけの出席となった。これらの場合は、当然のことながら航空便を利用し、空港からレンタカーで式場へ行き、披露宴の終了後ホテルに一泊することになる。正直言って、かなりの物要りではあったが、折角の招待なので全部出席した。
 勿論、日本でも新幹線や航空機で出掛け、宿泊が必要な場合も多々あるが、アメリカの場合、国土が広いために旅行の距離、時間が長くなる。また国内でも時差があるため、これを考慮して旅程を組まなければならない。シカゴから西海岸に行く場合、通常料金で航空券を購入すると往復八百ドル(当時)くらいになり大変に懐が痛む。しかし、幸に結婚式の招待状というものは、洋の東西を問わず早めに到着することや、式が週末に行われるために、ニ〜三週間前に土曜日越しの格安航空券を購入したり、土曜日に現地のホテルに泊まったりして旅費を節約することができる。 (アメリカでは、平常航空機の利用はビジネス出張が大半であるため、週末は利用客が激減する。この対策として、土曜日に旅行先で宿泊が必要な航空券は格安になるわけである。しかし、日曜日越しは安くならない。これは、月曜の朝一番から出張先で仕事を始めるために日曜日のうちに現地入りするビジネス客が多いからである)

(3)結婚のお祝い
 日本の場合は、概ね現金を贈ることが一般的であり、またこれが貰う方にとっても一番便利と言える。しかし、アメリカでは、品物を持参する人が圧倒的に多い。
 この場合、贈られる側、贈る側の双方にとって大変に便利な習慣がある。これは、新郎新婦が予め、自分たちの結婚生活に必要な品々を選び、特定のデパートや専門店に登録しておく。贈る側はこれらの店に行き、登録されたリストをコンピューターで打ち出してもらい、その中から未だ手配されていない品物を選び出すというシステムである。ただし、このチェックが遅れると、自分の予算に合う品物が無くなり、高過ぎるか、または安過ぎる品物しか残っていないということもある。やはり、できるだけは早めに手配するに越したことはない。
 私の場合は、結局全ての場合、現金を贈るという羽目になったが、これも結構一般的と見え、結婚祝い用の現金を入れるカードは、ドラッグストアなどでよく売られている。では、現金を贈る場合、一体幾ら位にしたら妥当かということは、また頭の痛い問題であるが、カップルで出席する場合の相場は百ドルということを聞き、専らこれに従っていた。但し、一人で出席の場合も同額にした。

(4)結婚式
 式は、殆どの場合教会で行われたが、これも宗派によって異なり、厳粛なものから簡素なものまでいろいろとある。また、ホテルやバンケットホールに隣接した東屋(四阿)で挙行された場合もあり、これもなかなか雰囲気が良かった。 しかし、式のやり方は違っても、どの結婚式でも共通なのは、花嫁の介添え役であるメイド・オブ・オーナーと付添い役のブライズ・メイド、花婿の介添え役のベストマン、それに来客を先導して案内するアッシャーが、それぞれ揃いの服で登場することである。 これらの役は、概ね花嫁、花婿の友人、兄弟姉妹や従兄弟などが務める場合が多い。

(5)服装
 結婚式や披露宴に出席する人々の服装は、人それぞれであって、いわゆる礼服であるタキシードを着用している人は、新郎新婦の父親や前述のベストマン、アッシャーなどくらいである。一般的には、男性は通常のビジネススーツが多く、日本のように誰も彼もが黒ダブルの略礼服というような異様な光景にお目にかかることはない。

(6)披露宴
 多くの場合、レストランやバンケットルームを借り切って行われ、費用の掛かるホテルでの披露パーティーに出席したことは一回のみであった。通常は、結婚式後にそれぞれ車で披露パーティー会場に移動し、披露宴が始まるまで、先ずはバーで一杯という次第となる。これは、結婚式終了後に新郎新婦の写真や、それぞれの両親、家族などと一緒の写真を撮るための時間稼ぎと思われる。 披露宴は、前述のベストマンの司会と極短いスピーチで始められるが、日本で見かけるように招待客が次々と祝辞を述べるような場面はない。また、新郎新婦がお色直しのために宴たけなわで消えることもなく、勿論キャンドルサービスなどというコマーシャリズムに毒された、おかしな風習にお目にかかることもない。そのうちに、あちらこちらの客がスプーンやフォークでグラスを叩く音が聞こえ始める。これは、新郎新婦にキスをすることを求める合図で、二人はその度ごとにキスをして見せなければならない。 アツアツの時とは言え楽ではない習慣である。
 デザートの頃合になると、新郎新婦が思い思いにテーブルを回り、出席者と一緒に写真を撮ったり、歓談したりして和やかな一時を過す。

(7)ダンス
 披露宴には、殆どの場合生演奏をするバンドが入り、食後のダンスを楽しむ。先ず始めに新郎新婦が踊り、次に新郎は新婦の母親、新婦は新郎の父親と踊り、以下メイド・オブオーナーやベストマンを始め、来客それぞれと踊り、夜中の12時を過ぎるまで踊り続けることも珍しくない。これには、流石に参り途中で失礼した場合が殆どであった。