まつだい芝峠温泉「雲海」紀行  9月6日      梶田誠三

今が青春18切符くらぶの旅  令和4年(2022)8月28日(日)〜29日(月)


 今回の旅の副題に「越後まつだい棚田群」見学の旅とあり、迷わず申込みをして参加することとなった。この宿に私が来るのは5回目である。通常は1月の厳冬期の日帰りであり、前回(平成29年)の1泊旅の翌日は、越後堀の内駅下車の永林寺であった。住職の説法、石川雲蝶の彫刻に加えて鰻重の昼食と言う素晴らしい企画であった。そんな事情から棚田見学に結びつかなかったのである。
 棚田見学するには厳冬期の企画を変更してもらう必要があった。まつだいの棚田、就中星峠の棚田を見てみたいとの思いには、それなりの背景がある。糸魚川駅に集合する旅のの折、ほくほく線を利用して行くことにした。まつだい駅で上下線の待ち合わせがあり、ホームに出てみたら「星峠の棚田」のポスターに眼を奪われた。何と素晴らしい風景かと。
機会があれば訪ねてみたいと思ったことを忘れもしない。数年後に「小さな幸せを探す会」のバス旅が当地に来ることになり、是非とも寄って欲しいとの希望を聴いて頂いたが、天候不順で全く展望が効かなかった。

 前段が長くなったが今回の旅に入ろう。大船から高崎、水上を経て六日町までは約6時間ばかり、本来の運賃4,840円が18切符利用で2,410円。ここから私鉄ほくほく線に乗換え約25分でまつだい駅に着いた。運転手さんに車内清算をして頂き600円を支払い下車。駅前には宿「雲海」の送迎バスが待っている。今日は18:30の夕食まで何の予定もない。露天風呂に浸かり展望を楽しんだり、気泡風呂も空いており長湯することにした。

翌朝5時過ぎに目覚めると、部屋の窓から朝焼け風景が飛び込んで来た。ゆっくり眺めたいと思い、先ずはトイレだと用を済ませて窓際に戻ると、太陽は既に昇っており残念至極なり。朝風呂に向うと広々した窓越しに一面の雲海だ。何人もの宿泊客が、その風景に堪能されている。風呂に浸かりながらこの風景を望めるのは何とも贅沢の限りである。雲海の彼方には三国山脈の谷川岳から万太郎岳、更にその右手には苗場山であろう。天気が良いから見晴らしも最高である。
棚田めぐりのバスは10:00設定であり、それに合わせて朝食は8:00となっている。ということで、それまでは宿付近の散策に当てられる。女性係員にお勧めの散策コースはありますかと問う。反応は乏しく、せいぜい宿周り辺りでしょうとのこと。考えてみれば、どなたも車道は分っても、歩くことは想定外なのだろう。お客と言えば、宿から見える風景を狙って来られているのだから、散歩コースについては質問もないのだろう。環境からして、従業員同士でも話題の対象外かと思われる。外に出て、今度は年配の男性に聞いてみたのだ。宿近くの樹林地帯を指さしながら、宿の裏手の崖下道に抜ける林道はあるのでしょうかと具体的に問うてみた。その方の返答によれば、コンクリート道から外れてはいけないとおっしゃる。蛇が出てきたり、何が出てくるか分からないと考えた方が良かろうと、何とも貴重なサジェスチョンを頂いた。そうこうする内に、宿から智恵子さんが出てきた。彼女も散策が好きなので、同行するケースは多い。加えて、分岐道に至ると彼女のセンスで、率直な意見を述べてくれたり、そろそろ折り返し地点かと声を掛けると、そうですねとか、もう少し行ってみませんかとの返答がある。こちらとしても決断に迷わないで済むので有難い。選んだ細道に入り、眼に入った棚田は地理的に言って、蓬平(よもぎひら)の棚田であろう。この展望地点から折り返して宿裏の道を選び進むと、その先にバイク青年が停車して風景を楽しんでいる所に出会った。バイクbゥら世田谷から来られていることが分ったので、つい最近、桜新町の長谷川町子記念館に行ってきたばかりですよと挨拶代わりにした。彼はこの時間帯まで雲海が残っているのは珍しいと返してきた。この道には「雲海」前の県道から入られたのでしょうが、分岐点は歩けば遠いでしょうかと尋ねた。結構の距離がありそうな雰囲気だったので、元来た道を戻ることにした。別れてから、彼がどこを目指しておられるのか尋ねれば良かったと思ったのは、彼の進行方向には「じょんのびの里高柳」や「荻ノ島かやぶきの里」があるはずなのだ。四十雀会の仲間の一人が長岡に疎開していたこともあって、長岡の花火大会や木喰仏巡りに加味して、荻ノ島・高柳からまつだいの国重文「松のぎ神社」(芋に似て非なる字、のぎ?)にも寄ったのだ。
宿に戻ったのは、朝食タイムぎりぎりであった。新鮮な野菜中心のメニューで美味しく、体にも良さそうであった。食後のコーヒーを飲んで、阪川さんと私の部屋332号室に集合し、棚田めぐりのバス出発までの時間に、旅費の清算をすることになっていたのだ。
 いよいよ棚田めぐりである。10時ジャストにバスは来た。案内して頂くのは小山さんとおっしゃり、都会から移り住んで10年余りに及ぶ感触を得た。まずは星峠の棚田に向う。まつだいの駅から直江津方面に向うほくほく線のトンネル上を通過した。この線は豪雪地帯を貫いているので六日町駅の次にある魚沼丘陵駅から日本海側の犀潟、頚城駅手前の大池いこいの森駅まで殆どトンネルで通過している。十日町やまつだい等の駅は地上に出るが、美佐島駅になるとトンネル内駅である。トンネル上を通過すると国道253号線、続いて国道403号線を行く。星峠に近づくと林道らしき道に入り登りきった辺りに展望台駐車場があり、憧れの棚田風景を眼下にすることが出来た。ここの棚田はそれぞれの区画を地元の農家の皆さんが生活の糧として取り組まれており、この田を維持されてきたのは大変な労力の賜物である。皆さん、高年齢の方が多くいつまで続けられるのか。若手で次ぐ方は期待できなかろう。となれば、この風景は早晩消滅の運命にあることになる。一段と高所にある展望台にも案内して頂いた。NHKの大河ドラマ「天地人」のオープニング映像の棚田は「星峠の棚田」だと小山さんは教えて下さった。
 ここから403号線に戻り203号線との合流地点の中央辺りから、林道もどきの道を上っていくと203号線に出て、すぐの所に儀明の棚田がある。ここの良さは桜2本に象徴されるので時期の制約を受ける。もう一ヶ所、近いから行きましょうと案内されたのが蒲生(かもう)の棚田であった。203号線に戻り、一気にまつだい駅に到着だ。スムーズに行ったので予定より一本早いほくほく線で、越後湯沢行きであった。途中の十日町駅は飯山線との乗換駅で、近くに信濃川があり鉄橋を渡るので車窓風景を楽しめる。トンネル続きのこの線で鉄橋は一服の清涼剤とも言える貴重なものだ。
 越後湯沢に着いて、構内のがんぎ横丁にある「小嶋屋」を目指した。昼食にここのへぎ蕎麦を食べようとの魂胆である。もちろん、生ビールは必須である。へぎ蕎麦は海藻のふのりをつなぎに使っており、へぎと言う器に盛りつけられる。本店は十日町で長岡店共々食したことがある。

 今まで、湯沢駅周辺を散策した思い出は殆ど無く、殊に東口は全くない。小嶋屋の女店員さんに、喫煙コーナーは東口にありますと聞いていたので迷うことなく東口方面に向った。駅からほど近い所に銭湯があって、@400円とのこと。今後、機会があれば入ってみたいと思った。そのすぐ近くに不動産屋さんがあって、何気なく見ていると、リゾートマンションの低価格にはビックリした。高いので50万円、安いのは10万円以下で多数あるのだ。管理費は月1万円が最低ラインである。バブル真っ盛りの頃は500万円でも安いと感じた思い出がある。各企業が従業員の保養施設として争って購入していたのも今は昔の物語である。湯沢から横浜までのタイムスケジュールは
湯沢15:08−15:48水上15:53−16:56高崎16:59−19:25横浜
であり、乗換時間を利用しての喫煙は全く不可能である。ということで、湯沢東口の喫煙コーナーは往復とも利用させてもらった。
 横浜駅に着いて、桑原さんのお勧め、相鉄ジョイナスB2「横浜なかや大関本店」の味噌煮込みうどんを食して帰途についた。


棚田風景