特許の思い出   3月2日  青野正宏
 2月の「リモートミーティング」では桑井さんのいろいろな発明を披露してもらいました。朝のNHKニュースの時間帯で7時40分ごろに紹介されていた便利グッズのようなもので、いろいろと良く思いつくなと、参加者皆が感心していました。機会があれば、会員全体に披露してもらいたいものです。特許というより発明考案・意匠といったほうがふさわしく、アナウンスしたときのテーマ「特許」はふさわしくなかったので、結果のまとめでは「特許・発明考案」としました。
 一般に、「特許」はビジネス上「発明考案」や「意匠」などと比べて、ノーベル賞級の大発明はともかく、「特許」は重箱の針をつついたものが多く、素人が説明を聞いても面白くないと思います。特許はいくつかとりましたが、どんな特許だったかあまり覚えていません。しかし、他人の特許を潰したことは、その内容が極めて単純なことと、それが仮に認められると大変困ることになったので、よく覚えています。それを紹介します。
 現役時代の仕事としてレーダーによる航空管制のシステムの開発を行っていましたが、あるとき、ライバル会社が、航空機が地上や建造物に衝突しそうになると管制システムが、警報を発し、管制官が衝突回避をパイロットに指示する方法の特許出願の審査請求を行っているという情報を入手しました。衝突危険検知の方法として、航空機の進路方向の予測高度が危険かどうか判断するというものです。その方法として、地上や建造物の高度は複雑なところがあり、厳密にデータ化は困難です。また予測誤差を考えれば厳密に計算しても意味がありません。地表面をある程度の大きさの正方形に区切り、その正方形における最高高度プラスアルファを最低安全高度として、航空機がその正方形に入ることが予測された場合、高度が最低安全高度以下になりそうであれば警報を発するという方法です。この正方形に区切るという方法を特許出願されたものです。
 その特許出願を聞いたとき、当方もその方法で地上・建造物との衝突防止の機能を開発予定であり、お客(運輸省)にもその方法で提案済だったのですが、そういう提案書は公開資料と位置付けることはできず、意外と公開された文献にそういう記述がありません。苦労して先行しているアメリカのシステムの公開文献を入手し、異議申し立てをして拒絶査定に持ち込んだという思い出があります。(実際はもっと複雑なアルゴリズムですが単純化して記載しました。) その後、当方の方法で運輸省に採用され実装されましたが、実際に役にたったかどうかはわかりません。そういう事例はないほうが良いし、仮にあってもそういう警報が発出されるということは管制ミスということにつながるため、もみ消されて表にはででこないでしょう。しかし、米国ではニューヨークのツインタワーに航空機が衝突しそうになり、この機能で警告がだされて衝突が回避されたというニュースがありました。これが機能導入のための大きなPR効果になりました。
その後ツインタワーに航空機が衝突し、大惨事になったというのは皆承知のことです。最初それを聞いたとき、あの警報機能は役に立たなかったのかと一瞬思いましたが、わざと衝突させたと聞いて、いくら地上で警告をして回避させようとしてもそれは無理だと思いました。日本でもこの警報機能の導入前だったか後だったか忘れましたが、羽田に着陸寸前に海に墜落したという事故がありましたが、パイロットの精神異常のためという理由を聞いて、これでは管制側ではどうしようもないと感じました。
 この特許潰しの件があるまで、研究や開発部門でなく、単にソフトウェアを作っている部門では特許出願は無縁なことと思っていました。しかし、あんなアイデアでも危うく特許になりそうだったとわかり、この件で目から鱗が落ちて、私もいくつか特許を取りました。もっとも、会社が研究開発部門でなくても、技術部門だから特許を出せ出せとうるさくいうものですからノルマ達成のため、出したということが大きいです。後で洩れ聞いたところによるとライバル会社の上記衝突検知のアルゴズム出願も、戦略的に出願しようとしたものでなくノルマ達成のため苦し紛れに出したものだったそうです。
 湘現会のなかで、おそらく最も多く出願している人は60件以上出願されています。その1/3程度でたいしたことはありませんが、カウントしてみると出願数は22件 そのうち登録まで行ったのが半分です。権利はもちろん会社に吸い上げられ、数千円程度のハシタ金が支給されるだけでしたが、会社の業務の一環であり、そんなに画期的なものではないことはわかっていたので特に不満もありませんでした。ところが、まったく予想していませんでしたが、退職してからいくばくの特許実施料が会社から振り込まれるようになり、望外の収入になりました。今はもう期限切れです。